教養書のすすめ

-読書でより良い人生を生きるために-

2015-11-01から1ヶ月間の記事一覧

善き生としての正義――『これからの「正義」の話をしよう』

ハーバード大学におけるマイケル・サンデル氏の講義については、一度だけNHKの番組で放送されていたのを視聴したことがあった。それはまったくの偶然であり、またそのときの私は差し迫った用事もあったため、全部を観ることなくその場を離れなければなら…

これまで持っていたプラグマティズムのイメージについて

前回のエントリーで紹介した小川仁志氏の『アメリカを動かす思想』は、アメリカ人の思考の根底にある「プラグマティズム」について、より理解を深めたいという欲求があって読んだ教養書であるが、じつは「プラグマティズム」については、岩波文庫で出ている…

意識されないプラグマティズムの精神――『アメリカを動かす思想』

日本にとってアメリカという国は、良くも悪くも切っても切れない関係にある。というよりも、むしろ日本はいまだアメリカの属国だという意識が多かれ少なかれ私たちにはあるみたいだが、そんなアメリカのことを理解するためには「プラグマティズム」と呼ばれ…

お話をじっくり読むことの大切さ――『物語が生きる力を育てる』

物語とはどういうものか、物語が人間にどのような影響をおよぼすものなのか、という命題については、それまで小説をはじめとするさまざまな物語と接してきた私にとっては、けっして避けることのできないもののひとつとなっているが、脇明子氏の『物語が生き…

希望を捨てないという非合理――『なぜ人はニセ科学を信じるのか』

たとえば「自由」というものについて、あるいは「民主主義」というものについて、私たちはほぼ無条件にそれが「良い」ものであると思っている。人は何かに束縛された状態よりも、自由であるに越したことはないし、民主主義は市民ひとりひとりの意見が政治や…

自分はどんな「キャラ」でいるべきか――『キャラ化する/される子どもたち』

岩波書店の「岩波ブックレット」シリーズは、少ないページ数と安価な値段で現代社会の問題をわかりやすく説明してくれており、気になる問題の入門書としては格好のお手軽さであるが、土井隆義氏の『キャラ化する/される子どもたち』という本は、日本という…

タコツボ化した日本の近代――『日本の思想』

教養書を読んでいると、しばしば「タコツボ化」という表現と出くわすことがある。これは丸山真男氏が提唱した、近代以降の日本の社会や文化を象徴する性質を表わしたものであるが、その著書である『日本の思想』を読むと、どのような思考の経緯をたどってそ…

男女の違いを科学する――『科学でわかる男と女の心と脳』

私のこれまでの人生において、およそ仕事においても、またプライベートにおいても、女性と付き合っていると、しばしば不可解というか、何を考えているのかよくわからなくなるようなことが、少なくとも男同士のつきあいと比べて感じることが多かった。そのた…

「マイカー」という言葉の醜悪さ――『自動車の社会的費用』

車輪という構造は、ごく一部の微生物を除いて、およそ生物界には存在し得ないものである。少なくとも人の目に見える大きさの生物のなかで、その移動手段として車輪という構造をもつものはいない。人が何かを発明するさいに、既存の生物を模倣することからは…

「正常」と「異常」の境界線の遷移について

あえてタイトルに「正常」と「異常」という単語を使ったが、具体的に言えば、私たち人間の心の状態を指していると考えてほしい。その人の精神が健康な状態なのか、あるいは何らかの「病気」にかかっているのか――それは身体的な症状として、比較的わかりやす…

失われた「大きな物語」を求めて――『定本 物語消費論』

最近、私のなかで「物語を消費する」という表現がどうにも気になっているのは、他ならぬ私自身が物語を消費しているという自覚があるからに他ならない。小説や漫画、アニメ、ゲーム、最近では某動画サイトに投稿される二次創作物といったコンテンツは、かつ…

「デキル人」から「デキタ人」へ――『マジメすぎて、苦しい人たち』

たとえば、フロイトによって無意識の領域が発見され、それに「無意識」という名称がつけられるまで、人々はこの世界に「無意識」なるものが存在することを知らなかった。それまで未分類のものであったものが、名前をつけられて人間の理性の領域に分類される…

贈り物としての情報――『街場のメディア論』

内田樹氏の著作については、一時期ずいぶんと入れ込んでいたことがあった。さすがに今はそれほどではなくなっているのだが、当時「まぎれもない自分」というものについて悩んでいたさいに、「そんなものはない」という回答に行き着くことになったきっかけと…

知的対話の面白さ――『ぼくらの頭脳の鍛え方』

現代の知識人を代表するであろう立花隆氏と佐藤優氏が、「必読の教養書400冊」というサブタイトルをつけて著した『ぼくらの頭脳の鍛え方』という本を、「教養書のお勧め本」というくくりで捉えた場合、ほぼ間違いなくこのブログの存在意義は失われてしまう。…

誰もやらないことをやるということ――『職業は武装解除』

およそ教養書にかぎった話ではないが、本を読んでいて面白いと思うのは、普通であれば出会うことはおろか、もしかしたらその存在すら知りえなかったかもしれない人々と、間接的にではあるが知り合うことができるということである。そして、何らかの形でその…