教養書のすすめ

-読書でより良い人生を生きるために-

2016-01-01から1年間の記事一覧

世界と折り合いをつける脳――『養老孟司の人間科学講義』

ほんの数年前まで、私は「まぎれもない自分自身」というものがどこかにあるはずだ、と信じて疑っていなかったし、それをずっと探し求めるような生き方をしていた。今にして思えば、自分というものについて、ずっと漠然とした不安定さを感じていたのだろう。…

見ているのは「指」か「月」か――『なぜ、あの人と話がかみ合わないのか』

ある人が面白いと思って貸してくれた本が、自分にとってはさほど面白いと思えなかったりする場合がよくある。同じ内容の本を読んでいるはずなのに、なぜその人と自分のあいだで正反対の意見になってしまうのか、というのは、私にとってはけっこう重要なテー…

それはどのレベルの話なのか――『具体と抽象』

小説を読むことのメリットのひとつに、「登場人物との対話」というものがある。自分というちっぽけな存在の、ごく限られた一生のなかで、出会うことのできる人はごく限られている。だが小説は、ときに場所や時間さえも超えて、さまざまな人たちと対話し、交…

人は「言い訳」をする生き物

人が行動するときに、常に何かを思考した結果としてそうしているわけではなく、むしろ機械的、自動的な行動に身を任せていることのほうが多い、というのは、ロバート・B・チャルディーニの『影響力の武器』に書かれていることで、人もしょせんは動物の一種…

「国民」という名の幻想――『レイヤー化する世界』

十九世紀から二十世紀にかけて確立してきた資本主義という体制が成熟に達し、すでにあちこちで消化不良を引き起こしている状態であるというのは、これまで読んできた本でも指摘されていることである。資本主義の本質は、世界をウチとソトに分けたうえで、富…

ネットことばという新しい世界――『ネットで「つながる」ことの耐えられない軽さ』

以前、私はネット上にウェブサイトをもっていて、そこで長く本の書評を書いてきたことがある。現在そのサイトは、自身の環境の大きな変化があって更新を停止し、そのまま今に至っているのだが、再開できるかどうかは定かではない。というのも、私のそれまで…

最適化だけを考えることの弊害――『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』

世の中に、成功体験や成功事例を取り上げた本はそれこそ星の数ほどあるが、失敗体験を取り上げたものには、なかなかお目にかかったことがない。それはきっと、誰しもが成功を求め、夢みているからに他ならないからだと思っているのだが、ふと現実に目を向け…

見えないからこそ怖ろしいもの――『「空気」の研究』

エスニック・ジョークと呼ばれるものがある。これは、ある特定の民族や国民の性質を反映するようなエピソードを、面白おかしく誇張して語るという冗談のことだが、そのなかで日本人の特徴として挙げられているのは、「場の空気を読む」というものである。 沈…