教養書のすすめ

-読書でより良い人生を生きるために-

最適化だけを考えることの弊害――『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』

 世の中に、成功体験や成功事例を取り上げた本はそれこそ星の数ほどあるが、失敗体験を取り上げたものには、なかなかお目にかかったことがない。それはきっと、誰しもが成功を求め、夢みているからに他ならないからだと思っているのだが、ふと現実に目を向ければ、成功事例の裏には、出版された本のそれこそ何十倍、何百倍もの失敗事例があるものだ。だがそうしたものは、なかなか人の目に留まらないものだったりする。

  人は誰しもが成功を求めてやまないが、それ以上に多くの失敗をする。それはある意味で、ごく当然のことにすぎない。なぜなら、この世に完璧な人間などいるはずがないのだから。だが、あまりに成功体験や成功事例ばかりに目を向けてばかりいると、それこそ宝くじが自分にも当たるに違いない、という錯覚に陥ってしまう。そういう意味で、カレン・フェラン氏の『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』は貴重な本だ。ここには、企業経営のコンサルタントとして、一流の企業を渡り歩いてきた著者が犯してしまった間違い――というよりも、およそコンサル業界がこんにちもなお犯しつづけている数々の過ちが書かれている。

 企業の戦略や業務プロセスの改善、業績を管理するための数値化されたシステム体系など、コンサル業界がひっさげているモデルや理論を具体的に挙げながら、いっけんするときわめて効率的なやり方に見えるそれらが、じっさいに企業に導入されると、なぜかうまくいかない。むしろそんなものを無視したほうが、企業の業績がアップすることさえある、というある種の皮肉を満載したこの本の本質にあるのは、「企業を動かしているのは人である」という一点に尽きる。そして、コンサル業界が携えているモデルや理論の大半が、その大前提に目を向けていないと著者は語る。

 人材はビジネスの一部ではなく、ビジネス=人材であるという認識――それは、言い換えれば企業の抱える問題のほとんどは、人間が原因となっている、ということへの気づきである。より正確には、人間関係がうまくいっていない、部門間での対立や不信感があるためにうまくいっていないから問題が生じているのであって、であるなら、その解決方法はそうした問題点をみんなで持ち寄って認識し、どうすればいいのかをみんなで考えるべきなのだ。そしてこの、自分たちで解決方法を考えることの重要性も、この本の主要なテーマのひとつとなっている。

 コンサルを雇うというのは、外部からの刺激をもって社内を活性化させる、という意味では重要なのだが、企業の問題点を自分たちの代わりに考えてもらう、という意識があるなら、そのコンサルは大抵失敗に終わってしまう。これはある意味で、人間の個性はさまざまあるはずなのに、どの生徒にもまったく同じカリキュラムの授業を受けさせることの弊害に通じるものがある。そして残念なことに、私たちもまたそうした考え方にすっかり慣れてしまっているのだ。問題に対する最短距離をたどっているように見えて、じつは問題から遠ざかっていた、ということにならないための指針が、成功事例ではなく失敗事例を告白したこの本のなかにはたしかにある。