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教養書のすすめ

-読書でより良い人生を生きるために-

意識されないプラグマティズムの精神――『アメリカを動かす思想』

教養書紹介

 日本にとってアメリカという国は、良くも悪くも切っても切れない関係にある。というよりも、むしろ日本はいまだアメリカの属国だという意識が多かれ少なかれ私たちにはあるみたいだが、そんなアメリカのことを理解するためには「プラグマティズム」と呼ばれる思想を知る必要がある、という話を何度か耳にしたことがあった。私が小川仁志氏の『アメリカを動かす思想』という本を手にとったのは、ひとえにそのサブタイトルにある「プラグマティズム入門」という言葉に惹かれてのことだったのだが、この本を読んでわかるのは、たしかにプラグマティズムはアメリカを動かす思想となってはいるのだが、それはアメリカ人にとって疑う余地のない原理であるがゆえに、ふだんの言動において意識されることすらない、ということである。


 「プラグマティズム」とは、日本では「実用主義」といった言葉に訳されているが、より厳密には、生じた結果によって思考の意味を決定しようという考え方のことを指す。たとえば、ある目的を達成するためにAという方法論とBという方法論があったとする。そのさい、AとBのうちのどちらが正しいものなのかを論じることを、プラグマティズムは無意味だと否定する。重要なのは、AとBの方法論をじっさいに試してみたときに、そのどちらがより目的を果たすのに有益であったのかであり、もし結果が同一のもの、つまりどちらも同じ結果であれば、そのどちらの方法論がより正しいのかといった差異は、そもそも存在しないものだと考えるのである。


 物凄くおおざっぱに説明するなら、「考えている暇があったら実践しろ」というのが、プラグマティズムの基本ということになる。この本ではパース、ジェイムズ、デューイといったプラグマティズム確立の立役者たち、そしてその発展形であるネオ・プラグマティズムなどの展開を、その違いを含めて簡易に説明してくれているが、同時にアメリカ人が強く意識する思想、すなわち「リベラリズム」「デモクラシー」「キャピタリズム」といったものについても解説している。だが、著者によればこうした思想の根底にあるのは、あくまでプラグマティズムであると述べる。それはまるでアメリカ人のDNAのごとく、ごく自然な概念として、彼らの意識下に息づいているというのが、この本の趣旨のひとつだと言うことができる。


 たとえば日本人にとって、「自然」という概念が外来語としての「nature」として輸入されるまで意識されることがなかったのは、それだけ日本人にとっての「自然」というものが、自分たちの日々の生活のなかにあたり前のように溶け込んでいて、意識することさえなかったということを意味する。それと同じように、アメリカ人にとっての「プラグマティズム」もまた、かつての開拓者だった頃の彼らに共通のものとして宿っている、あたり前の概念なのだ。そしてこの本では、ともすると実利ばかりを求める悪しきものとして捉えられがちな「プラグマティズム」の本質が、トライアンドエラーの繰り返しによって、今より良い方向を目指すものであると述べている。


 そういう意味では、プラグマティズムというのは、飽くなき前進の思考である。そしてそれが、アメリカという国の原動力となっているという著者の論は、なるほどと納得させるものがたしかにあった。教養というものについても、たんに蓄積するだけでなく、いかに実践に結びつけていくべきかという点で、プラグマティズムは有益なものとなる可能性がありそうである。