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教養書のすすめ

-読書でより良い人生を生きるために-

誰もやらないことをやるということ――『職業は武装解除』

 およそ教養書にかぎった話ではないが、本を読んでいて面白いと思うのは、普通であれば出会うことはおろか、もしかしたらその存在すら知りえなかったかもしれない人々と、間接的にではあるが知り合うことができるということである。そして、何らかの形でその人生が本という形で記録されているということは、その生き様が非常にユニークなものだから、という理由であることが大きい。


 世のなかには、偉大なことを成し遂げた人たちがいて、その人たちのことを、私たちは伝記という形で知ることができる。そして、そうした伝記を読むたびに思うのは、ごく平凡な一市民にすぎない自分とは違って、この偉人たちはなぜこんな、誰も通らないような道なき道を、あえて苦労しながらも突き進むような生き方を選択し、それを続けることができたのだろうか、という素朴な疑問だった。


 『職業は武装解除』の著者である瀬谷ルミ子氏は、日本人でありながら、紛争地域と呼ばれる危険な国々に赴いては、その紛争を最終的に解決する――兵士や戦闘員から武器を回収したうえで除隊させ、一般市民として社会に復帰するための手助けをするという活動をしている方であるが、この方の半生を記した著書を読んでいて思うのは、歴史的な偉人たち――たとえばガンジーにしろヘレン・ケラーにしろ、彼らが数ある選択肢のなかから今の生き方を選びとったというよりは、むしろそれ以外の生き方しか選択できなかったのではないか、ということである。


 高校三年生のときに目にした新聞に掲載されていた、ルワンダ大虐殺で難民となった親子の写真を見て以来、ただひたすら「紛争を解決したい」という激烈なまでの意思をもちつづけ、そのために必要だと思われることを模索し、またじっさいに行動したりしてきた著者のその不屈の姿勢は、ある意味ですさまじいものが感じられた。そしてその「すさまじさ」の原点にあるのは、著者が肩書きや所属といったものにそもそも依存したりせず、必要であればたったひとりででも紛争解決のために行動することを、なかばあたり前のように考えているということだ。


 紛争地域で武装解除をする、というのは、これまで国連ですらやれなかったことであるが、その先駆者としての役割を、ひとりの人間が果たしたことになる。私は、こうした新しいルールなり価値観なりを生み出すものこそが「教養」であると思ってきたが、著者の生き様をまのあたりにして思うのは、むしろ経験や体験から学んだものを「教養」として形づくるという、流れの逆転作用である。生き方そのものが、その後に続こうとする人たちにとっての規範となりえることを、この本は雄弁に物語っている。