教養書のすすめ

-読書でより良い人生を生きるために-

一緒にタイトルで悩みましょう――『ぐっとくる題名』

 私は文章を書くことそのものは嫌いではない。むしろ好んで文章を書くようなところさえあるのだが、その代わりと言っては変だが、書いた文章にうまいタイトルをつけるのが昔から苦手だった。思えばこれは、小学校の読書感想文のころからのこの傾向があり、いろいろ悩んだあげく、つけられるタイトルは「○×を読んで」という、何のひねりもないものとなってしまうのが常だった。このブログのタイトルにしたって、「教養書のすすめ」なんて、没個性的なものとなってしまっている。


 ブルボン小林氏の『ぐっとくる題名』という本を手にとったのは、そんなタイトル付けの苦手な私でも、何かうまいネーミングが浮かぶヒントになるのではないか、という期待があったのだが、読んでいてわかったのは、この本はうまいタイトルをつけるためのノウハウを収めたものではなく、著者独自のセンスで「心に残る題名」「素敵な題名」を取り上げ、それがなぜ「ぐっと」きたのかをつらつらと書き綴った、教養書というよりはエッセイに近い本だということである。


 この本の記事をこのブログに載せるべきなのかどうか、じつは微妙なものがあるとは思ったのだが、それでも「教養書」として紹介したいと思ったのは、じつは次の引用文に惹かれてのことだ。

 

 この本を読めば誰にでも、間違いなく「ぐっとくる題名」が即座に思い浮かぶ……かどうかは分かりません。ですが、あなたのすぐそばで一緒に悩む仲間が一人増える、それくらいの心強さは得られると思います。(『ぐっとくる題名』より)

 

 

 なんというか、このある意味奥ゆかしくて控えめな文章に、まさに「ぐっとくる」ものがあったのだ。リアルにしろネットにしろ、とにかく目立ってナンボ、誇大妄想かと思えるくらいの自信とセンセーショナルな文句で、いかに注目を集めるかを争っている今の時代に、この控えめな主張は、逆に狙ったものであるとしたら相当にしたたかな作戦であるが、どうもこれが著者の地の性格のようだ。


 文学、漫画、映画、音楽やゲームなど、およそジャンルにこだわらず、ひたすら「ぐっとくる」題名を紹介したこの本は、語り口調こそくだけた感じがあるものの、その分析や解説には、言葉というものに人一倍敏感なセンスを感じさせるものがたしかにあった。そして、そのセンスの一部は、おそらく「詩」の分野から出てきているものだと思われる。


 詩というのは、言葉を使って既存の言葉の概念を打ち崩すものがある。本来なら意味の通じない言葉のつながりのなかに、あらたな意味、それまでにない価値を創造するというダイナミズムがあるのだが、そうした不協和音を響かせることで人の注意を引く「題名」が、この本にはいくつも紹介されている。


 だから私も、この本を参考に今回のエントリーのタイトル付には、少しだけ頑張ってみた。もし、少しでも「ぐっとくる」ようなものがあったとしたら、それはこの本のおかげである。