教養書のすすめ

-読書でより良い人生を生きるために-

強い心を手に入れるには――『宇宙飛行士に学ぶ心の鍛え方』

 自分の心の弱さというものに、ときどき自分でもあきれ果ててしまうことがある。こと突発的な出来事に対して、私はすぐに動揺をあらわにしてしまうところがあって、なかなか心を平静に保てないことなどしょっちゅうだ。どんな逆境においてもびくともしないような、強いメンタルを得るにはどうすればいいのだろうか、と思っていたときに出会ったのが、古川聡氏の書いた『宇宙飛行士に学ぶ心の鍛え方』という本である。


 日本人宇宙飛行士として、国際宇宙ステーションでの長期ミッションを経験した著者であるが、この本を読んでいくとわかってくるのは、著者にとっての「心を鍛える」というのは、何事にも対応できるという「自信」を身につけることに尽きる、という点だ。宇宙空間とは、ちょっとした手違いやミスが自分だけでなく、仲間たちの命すらも危険にさらすことになりかねない場所である。宇宙飛行士とは、そんなプレッシャーに耐え続けなければならず、まして突発的な事故ですぐパニックになるようでは到底勤まらない職業でもある。


 私は宇宙飛行士になれるような人は、普通の人よりも太い神経をもっているとか、そういう人たちが選ばれるのだろうと思っていた。もちろん、そうした一面もあるだろう。だが、彼らの宇宙飛行士としての「自信」は、何より厳しい訓練のくり返しによって得られたものだということに気づかされた。宇宙空間で起こりえる、およそありとあらゆる危機的状況を想定し、何度もシミュレーションを重ねていくことでついていくある種の度胸は、よくよく考えれば単純なものだ。だが、だからこそ宇宙飛行士たちは、宇宙に出るにあたって、「自分はやれるだけのことをやってきた」という感覚をいだくことができるし、またそれでも駄目だったときは死んでもしょうがない、という境地にまで到ることができる。


 閉鎖空間において他人といかにストレスなく過ごしていくかとか、物事がなかなか思うようにいかないときにどうするか、といった著者の提言に学ぶべきところは多いが、とくに、「自分にできること」と「自分ではどうにもできないこと」を区別して考えるという姿勢は、当時つらい時期を過ごしていた私にとって大きな救いになった。「どうにもできない」ことと割り切ることができれば、そのことについていったん棚上げし、とりあえず今自分にできることに集中することができる。案外、それこそが人生をより良く生きることにつながっていくのかもしれない。