教養書のすすめ

-読書でより良い人生を生きるために-

感情をいかにコントロールするか――『EQ-こころの知能指数-』

 小さいころ、私はわりと勉強ができる子どもだった。今では「勉強ができる」ということが、そのまま「頭が良い」ということを意味するわけでないことを知っているが、では人間の頭の良さとは、いったいどういうことを言うのだろう、という疑問は以前からあった。


 人間の頭の良さを表わす指標として有名なものに「IQ」というものがあるが、ダニエル・ゴールマン氏は『EQ-こころの知能指数-』という本の中で、「EQ」という指標を挙げている。「emotional intelligence」、「心の知能指数」という日本語を当てられたこの指標は、これまで人間の頭の良さを知性という指標でのみ推し量ろうとしてきたことに対する反省から生まれた概念である。


 IQの高い人間は、たしかに頭が良いのかもしれないが、それがかならずしもその人の人生を豊かなものにするわけではない。大学で優秀な成績を修めた人たちが、ときに重大な犯罪に手を染めてしまう例を、オウム真理教によるサリン事件をはじめ、私たちはいくつも知っている。


 知性の高さだけが人間としての質の高さを示すわけではない。では、彼らに足りなかったのは何かと考えたときに、この本の提唱する「EQ」が出てくる。その根底にあるのは「情動の自己認識」というもので、これは自分が今どのような感情を抱いているか、あるモノに対して、自分がどんな気持ちになっているのかを客観的にとらえるための力だ。


 ときに理性を凌駕してしまう感情というものについて、まずは認識することから始まり、そこから感情をうまくコントロールすること、そして相手の感情を認識するという共感能力を高めていくことが、人間が社会により良く適応するために必要なことだと説く著者の「EQ」という考えは、人間のなかにある動物としての部分とうまく付き合っていくための力と言い換えることもできる。


 情動というものは、私たちの動物としての原始的な部分から生じるものであり、それは原始時代であれば生き残るために必要だったのかもしれないが、今の人間社会においては、むしろそこに生きる人を不利な立場にしかねないものだ。「EQ」を高めるということは、ヒトが「人間」として生きることを意味する。


 私も自分の「EQ」を高めてみたいものだが、どこかに「EQ」を鍛える専門家とかいないものだろうか。