教養書のすすめ

-読書でより良い人生を生きるために-

型にはまることからの解放――『禅と日本文化』

 禅について知りたいと思ったのは、それが日本独自のものというイメージがあったからだ。そしてもしそうであるなら、私が日本人である以上、私という存在もまた禅の影響を受けているはずであり、禅を知ることは自分を知ることにもつながるはずである。鈴木大拙氏の『禅と日本文化』は、そのタイトルにあるように、禅と呼ばれるものが、日本の文化や日本人の精神に及ぼした影響について書かれたものであるが、もともとこの本は、外国人のために英語で書かれたものを、日本語に再翻訳した本でもある。それゆえに、本書には訳者の名前(北川桃雄氏)も記されている。立ち位置としては、新渡戸稲造氏の『武士道』と同じだ。


 上述の「武士道」をはじめ、日本には「道」という考え方がある。何かひとつのことを究めようとするさいに、たんに誰よりも強くなるとか、誰かに自分の技を認めてほしいとかいった、目に見えるわかりやすい目標を追うのではなく、自分の内側に目を向け、精神的な成長や成熟をより重要視する価値観を表わすものであるが、こうした考えが生まれたのも禅の影響だとこの本では説いている。というのも、禅の最大の特長は、体系や形式といったもののの否定であるからだ。


 それゆえに、いっけんすると不合理であり、矛盾しているようにも思える「禅問答」といったものが生まれてくる。けっして何かの形にこだわることなく、そのときそのときの状況によって柔軟に形を変えていこうとする、心をひとつにとどめることなく、その流動性を受け入れること――まるで竹や柳のようなその考えは、たしかに日本的なものであり、私としてもよりしっくりくる考えだった。


 ある意味で、禅とはこうした教養書として紹介するにはもっとも不向きなテーマだと思うのだが、それを英語で外国人向きに書いたという著者の手腕に、驚きを禁じえない。この本を読んだ外国人の感想なんかをぜひ聞いてみたいものだ。