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教養書のすすめ

-読書でより良い人生を生きるために-

人間関係に迷ったときに――『アドラー心理学入門』

 生きるとはどういうことなのか、人生をより良く生きるために、自分はどうすればいいのか、という命題が、ふいに脳裏をよぎることがある。思えば教養書を読みたい、これまで知らなかった知識に触れたいという欲求は、常にこの命題とつながっているような気がする。


 一時期、出版業界で話題になったアドラーという心理学者に興味があって、岸見一郎氏の手がけた『アドラー心理学入門』を手にとることになったが、本当に私の心をとらえていたのは、アドラーという名前ではなく、「より良い人間関係のために」という副題だったのかもしれない。


 アドラーが構築した心理学には「個人心理学」という名称がつけられているが、ある意味でその心理学は個人にとって重く、厳しい姿勢を強要する。なぜならそれは、自分の選択や言動の結果を、誰のものでもない自分のものとして受け入れることであるからだ。何かに失敗したとき、よくないことが起こってしまったとき、私たちはよくその原因を自分の外に向けてしまいがちであるが、それは著者によれば、自分自身を欺く嘘だということになる。


 個人が個人として自立すること、そして自分以外との個人と調和して生きることこそが、社会をより良くすることであり、また人生の目的でもあるとしたアドラーの教えは、たとえば犯罪に手を染めた人に対して、起こってしまった過去ではなく、犯罪を犯したことでその個人の向かおうとする先へと目を向けるものだ。犯罪を犯すことを自分に許した彼は、はたしてそのことで何を成そうとしたのか――こうした考えは、とかく「臭いものに蓋」をするような現代社会の風潮に、風穴を開けるようなものがあり、だからこそアドラーブームが起こったのだろうと納得した。誰もが心のなかでは、より良い人生をおくりたいと思っている。そして、そのためのわかりやすい教えや解説書を、人は欲しているのだ。


 心理学というくくりではあるが、アドラーは何よりも人と人との関係に着目し、それをいかに処理すべきなのか、ということに執着した人として書かれている。そしてその考えは、人間関係やコミュニケーションというものに今も悩み続ける私たちにとって、ひとつの指針を示すものでもある。