教養書のすすめ

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見えないからこそ怖ろしいもの――『「空気」の研究』

 エスニック・ジョークと呼ばれるものがある。これは、ある特定の民族や国民の性質を反映するようなエピソードを、面白おかしく誇張して語るという冗談のことだが、そのなかで日本人の特徴として挙げられているのは、「場の空気を読む」というものである。

 沈没しそうな豪華客船から乗客を海に飛び込ませるための説得の言葉として、日本人に対しては「みなさん飛び込んでいますよ」というセリフが適用されている。このジョークをはじめて知ったとき、なるほど、これは確かに日本人を言い表すものだと妙に納得したのを覚えている。みんながやっているから、自分もやる――私はどちらかというと、昔からひとりで何かをやることを好むところがあったため、どちらかといえば空気を読むよりは、空気を壊すほうだったと思っているが、こうした「場の空気を読む」ことそのものを、「研究」の対象としたのが、山本七平氏の『「空気」の研究』である。

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