教養書のすすめ

-読書でより良い人生を生きるために-

「生物」であることをどう定義するか――『生物と無生物のあいだ』

 生物とは何か、という問いは、非常にクリティカルで根源的な命題だ。たとえば、私たち人間は「生物」、つまり生きていると言うことができるとしよう。ではもっと小さなもの、たとえば細菌などはどうだろうか。非常に小さな単細胞生物で、ときには私たちに病気をもたらす病原体にもなる細菌は、はたして生きていると言えるのかどうか。そしてその細菌よりももっと小さく、普通の顕微鏡ではその姿をとらえることもできないウイルスはどうだろう。それらははたして、「生きている」と言っていいものなのだろうか。

 こうした生物の定義に対する方向性、つまり、生物のサイズをどんどん小さくしていき、その機能をどんどん限定していくことで、生物を生物たらしめるぎりぎりのラインを探っていこうという方向性は、福岡伸一氏の『生物と無生物のあいだ』という本においても共通している。そしてその方向性を支えているのは、二十世紀の生命科学が到達した、生物の定義のひとつだ。

 

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