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教養書のすすめ

-読書でより良い人生を生きるために-

その思想はいまだ遠く――『現代のヒューマニズム』

教養書紹介

 ヒューマニズムとは何なのか、ということをあらためて考えたとき、私にとっての「ヒューマニズム」とは、その言葉の響きだけは知っているものの、それが指しているもの、意味するものについて、それほど深く考えることもなく今に至っている、ということに気づかされた。

 それまで漠然と「人道的であること」「人にやさしい」といったイメージしか持ち合わせていなかったヒューマニズムには、たしかに人道主義としての側面もあるが、その背景には、人間性というものが多分に抑圧されてきたこれまでの長い歴史がある。一般的なヒューマニズムにおける抑圧の対象としては、キリスト教の精神がそれにあたる。神の存在を至上とするキリスト教の教義を教え広める教会は、基本的に信者である人間に神の存在を疑問視することを許さないものだ。

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コモディティからスペシャリティへ――『断る力』

教養書紹介

 私にとって、勝間和代氏の書いた『断る力』を紹介するのは、多分に痛みをともなう行為でもある。なぜなら、そこに書かれていることは、私という人間がこれまでの人生において――少なくとも、仕事をするという一点において、それまで所属していた会社の環境にどっぷりと漬かってしまい、自己研鑽すること、つまりは、自分がそのけっして長くはない人生において何を目指し、どのような生き方をしたいのか、ということの探求や、そのために本当にやるべきことと真剣に向き合うといったことをずいぶんと怠っていた、という事実を突きつけられるからに他ならない。

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論理学を論理で理解するということ――『入門!論理学』

教養書紹介

 突然だが、私はここ数年「東方Project」と呼ばれる一連の同人シューティングゲームにハマっている。もちろん、最新作の「東方紺珠伝」もプレイしたが、これがいつになく難しくて、とりあえずeasyモードしかクリアできていないという状態である。


 ……まあ、そんな個人的な話はここまでにして、私がそんな話をしたのは、以下の動画のことを話題にする必要があったからに他ならない。


 この投稿動画は、形こそ東方二次創作であるが、じつは「努力と才能のどちらが優れているのか」という命題に対し、まず「才能」と「努力」という言葉についてしっかりとした定義づけをしたうえで、それぞれの言葉の次元を合わせるために、「努力→成果」「習慣→才能」という因果関係を明らかにするという、じつに論理的な段階を踏んでいるのだ。

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「火」という光源の乏しさ――『失われた夜の歴史』

教養書紹介

 骨董業界を舞台とした北森鴻氏のミステリー『狐罠』のなかで、とあるお椀の贋作を作成するシーンがある。その贋作師はわざわざ同じ時代の木材を手に入れ、同じ時代の道具をもちいて木を削るのだが、さらにその贋作師は、その椀の作成は秘伝ゆえに、おそらく夜に作られたものだということ、そして当時の夜は、今のような明るさではなかったことすら看破したうえで、どのようにその贋作を作るべきかを検討する――たしか、そんなシーンだったと記憶している。


 私たちがよく知っている夜というのは、その気になればいつでも「電灯」のなかに逃げ込むことができることを前提とする夜だ。とくに、本好きな私などはついつい忘れてしまいがちになるのだが、夜というのは本来、暗闇が支配する時間である。ためしに、ロウソクの明かりだけで本を読んでみようとすればわかるのだが、そのあまりに乏しい光源は、電灯の光に慣れてしまった私にとって、まともに読書することも叶わない、どうにも不便なものであり、もし電灯が発明されていなかったとしたら、私が夜にすることは、たぶん食事をして寝ることくらいだったのではないか、と真剣に思っている。

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自分が「ロートル」であるという認識

教養書雑記

 前回紹介した西内啓氏の『統計学が最強の学問である』は、読んでいると「統計学」によってどんな因果関係でも数字で説明できるような気になってくる、という点で非常に興味深い本であり、また統計学のそもそもの成り立ちや、どういった経緯があってそうした計算方法が編み出されたのかといった、ラディカルな部分についても言葉を選んでわかりやすく説明している、入門書としてはかなりの良書である。

toncyuu.hatenablog.com


 だがそのいっぽうで、この本を読んでいくと、たとえばそこに書かれている統計の具体例についてはよくわかるものの、ではその計算式を具体的にどこでどういうふうに活用すればいいのか、という点については、残念なことにこの本を読むだけではよくわからない、という意見に落ち着いてしまう。


 そう、なんというか、金銀財宝が詰まっているとわかっている宝箱を目の前にしながら、その蓋を開けるための鍵が見つからないかのような、なんとももどかしい気分になってしまうのだ。

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読み書きそろばん、統計学――『統計学が最強の学問である』

教養書紹介

 以前勤めていた会社で社内SEを担当していた経験があるが、そもそも企業が業務のシステム化というものに目を向けたもっとも大きな要因は、いかに煩雑で手間ひまのかかる業務を簡略化・効率化することができるか、という点にあった。そのもっとも典型的な例が、伝票処理だろう。さまざまな伝票の金額を集計するために、コンピュータが普及していなかった時代は、多くの人手と時間をかけて行なう必要があった。しかも、人のやることだから、当然計算違いや記入ミスなども出てくる。人件費も馬鹿にならない。


 そうした各種費用と、コンピュータ導入費とその開発費、維持費などを天秤にかけたさい、後者の費用のほうが総合してコスト安となると明らかになったときから、業務のシステム化という流れが生まれていった。そしてその姿勢は、21世紀となった今も基本的には変わっていない。

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本でつながる新しいコミュニティーの形――『ビブリオバトル』

教養書紹介

 読書とは、孤独な行為だという思いが私にはあった。本に対して向き合うのは、あくまで私という人間ひとりであって、たとえ、別の人が同じ本を読んでいたとしても、そこから得られるものも同じとはかぎらない。そもそも「本を読みましょう」という掛け声とともに、多人数が同じ部屋でいっせいに同じ本を読み始めたとしても、コミュニケーションをとっているのは人と本であり、そこに人と人との交流はない。どれだけ多くの人が集まっても、読書とはやはり孤独な行為なのだ。


 そうした個人的思いは基本的に今も変わってはいないのだが、谷口忠大氏の『ビブリオバトル』を最初に読んだとき、こうした形の本との関わり方もあるのだと妙に感慨深かったのをよく覚えている。

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